東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)158号 判決
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原告は、当初提出した本願明細書において、発明の名称を「イオン歯刷子」とし、発明の詳細な説明の項における本願発明の構成の説明として、弗化物を含む歯磨中の弗化カルシウムを有効にイオン化し得るようにしたことを特徴とする「イオン歯刷子」の構成を示し、かつ実施例の説明において、これを使用した場合の効果を述べたうえ、特許請求の範囲の項の記載を、「直流電源の負極に接続する金属端子を弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたものにおいて、前記電源の電圧を二V以上となし、もつて前記弗化物を含む歯磨中の弗化カルシウムを有効にイオン化し得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子。」としていたこと、しかるに、昭和三九年八月五日付手続補正書を提出して、発明の名称を「イオン歯刷子の使用方法」と訂正したほか、発明の詳細な説明の項において、本願発明の構成についても、イオン歯刷子の構造を従前どおり(但し、電源電圧は三V以上とする)示したうえで、「以て、市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法」と訂正し、かつ、特許請求の範囲の記載を、「直流電源の負極に接続する金属端子を弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたイオン歯刷子の前記電源の電圧を三V以上となし、以て市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法。」と訂正したことを認めることができる。右認定の経過事実に<書証>を総合検討すると、原告は、当初「イオン歯刷子」という物の発明として出願した本願発明明を、補正により、人体への弗素のイオン化導入法を利用した「イオン歯刷子の使用方法」という方法の発明に変更したものであり、その要旨は、前掲当事者間に争いのない本件審決理由中の認定のとおりのものというべく、したがつて、本願発明は、方法の発明として、人体の存在を必須の構成要件とするものと解するのが相当である。他に、右認定を左右すべき証拠はない。
そうすると、本件審決が本願発明の要旨の認定を誤り、ひいてその特許要件に関する判断を誤つたとする原告の主張は、すでにその前提において理由のないことが明らかである。
三 以上のとおりであるから、本件審決に原告の本訴請求を理由なしとして棄却……する。
(服部高顕 石沢健 奈良次郎)
(編注、本件審決理由の要旨次の通り)
本件審決理由の要旨
本願発明の要旨は、「直流電源の負極に接続する金属端子を、弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたイオン歯刷子の前記電源の電圧を三V以上となし、以て市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法。」にあるものと認められるにあるものと認められる。そして、右認定の要旨によれば、本願発明は、結局、人体への弗素のイオン化導入法を利用した歯刷子の使用方法であつて、これによつて、人体歯髄、腔内における乳酸菌等の発生とその繁殖力を抑制して、むし歯の発生を防止することを目的とするものであるから、本願発明にあつては、当然人体そのものが必須の構成要件とならざるをえない。このように、人体の存在を必須の構成要件とする発明は、たとえ、その構成要件中に「イオン歯刷子」という自然力利用の技術的手段があつたとしても、全体として、産業上直接利用できないものであるから、本願発明は、特許法第二九条に規定する特許要件を具備しないものである。)